2015年5月3日日曜日

装丁展のこれまで<5> 「ミステリ文庫殺人事件」展(2009)B


『あなたに似た人』(ロアルド・ダール)展示用カバー(装丁=折原カズヒロ)と
ノベルティのしおり

装丁展のこれまで<4>からつづく)

「ミステリ文庫殺人事件」展でこだわったのは、作ったオリジナルカバーを実際の文庫本にかけること。


カヴァーノチカラ展では、諸般の事情でカバーを束見本にかけて展示した。
だが、いいなと思って本を手に取ったら中身は真っ白…ということになるわけで、これはちょっと寂しい。


だから自分の展示では、手に取ったら読めるという状態にしたかった。それがやはり、本として当然の姿だと思うのだ。「装丁」は「本」あってのものだ。


デザイン上のことでは、使用した和文フォントは「游ゴシック体B」1種類だけにしたこと。
小ぶりでほどよく角に丸みがあり、クラシックな雰囲気がマッチすると思い、これひとつだけ購入した。

レトロなゴシック体がいい雰囲気

そしてこのとき、装丁以外にもこだわって作ったものがある。


ひとつは図録。
短い展示期間だと来られない人も多いが、これがあればあとで紹介するのも簡単だし、記録としても役に立つ。
他の展示会ではあまり見かけることがなかったが、図録を制作するには展示作品を早めに仕上がる必要があるからだろうか。作品に時間をかけたいという気持ちはわからないでもない。
だけど自分が見る側のときも、気に入った展示のときはなにか手元に残しておきたいけど作品を買うには金銭的にもスペース的にも余裕がなく、図録があればいいのにと思うことが多かった。
(カヴァーノチカラ展では図録を作らなかったことが反省点だった)

このときの図録。A5判16ページ

図録中面

もうひとつは、来場者に差しあげる「しおり」。
これは、イラストレーターのBOOSUKAさんが展示のときに、お礼状を後で送るのではなくその場で手渡していたのをヒントにしている。その場でもらって帰れるものがあるのはいいなと思ったのだ。
そして、装丁展ならしおりだな、と。

どうせなら全30種類の装丁のデザインで作り、気に入ったものを持ってかえってもらおう。そうすれば、どれが人気なのかもわかる。
来場者は気軽に感想を言ってくれる人ばかりではないのだが、しおりを渡すとほとんどの人は嬉しそうに選んで、あれこれ話してくれた。

並べて印刷して、自分でカットした

カバーデザインをそのまま利用


このふたつは、それ以降の装丁展でもつづけている。
このときは勝手がわからず図録を大量に作ってしまい、いまだにどっさり残っているのがちょっと哀しい…

*

作品を展示するのは初めてだったが(カヴァーノチカラ展はあったが)、イラストも使わずひとりで全部作り(写真は撮影してもらった)このときは勢いがあったんだなと、いま思う。

考えてみるとオリジナル装丁の個展というのは、最近ではこれだけかもしれない。
自分でもその後は仲間と組んでのグループ展が中心になった。

制作中は思い通りにいかないこともあったが、終わったあとは思わぬ好評もあって充実感があった。ふつうは展示会の初日に達成感があるのだろうが、受けるかどうか半信半疑のままだったので、「開催おめでとうございます」と言われても開催中はピンと来なくて、最後まであまりめでたい感じはなかった。

こういう機会を与えて自由にやらせてくれたフジナミさんには、感謝するほかない。

そして一段落したところで、フジナミさんからまた声がかかった。

「来年もどうでしょう?」

………え? いや、もうネタが……


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